今年は天候が不順で、寒い春・・・と思っていたら、
もしかして藤? と、見えづらくなった目にも、
淡い紫の房が見えた。
ここ何日かの暖かさで、一気に花の色も濃くなったようだ。
ちょっと郊外で、すばらしい山藤も見た。
今年新たに発見した藤棚。
駐車場の横で、誰も鑑賞しないらしいが、みごとに咲いている。
恋しければ形見にせむとわが屋戸に
植えし藤波いま咲きにけり
とは山部赤人の歌。
風に揺れる長い花房を
「藤波」とよんだという。
平安時代には、
貴族の愛でる花のひとつで、
「藤見の宴」が
盛んに行われていたらしい。
『枕草子』では
「松にかかる藤の花」を、
めでたきものとしている。
江戸の藤といえば、亀戸天神だ。
ただし、今の藤は昭和30年頃から
植え始めたものだとか。
ここも東京の下町。
東京大空襲で、社殿も藤棚も、
ことごとく焼失した。
今私たちが見ているのは、
地元の人々が元通りに復興したものだ。
花房はもとは3尺くらいの長さがあったが、
もとの長さの半分くらいで、
そこまでになるにはあと10年ほどかかるらしい。
上は3枚つづりの浮世絵。
幕末頃の亀戸天神の藤見の様子。
歌舞伎の中で踊られる「藤娘」に使う大道具の藤は、
ビックリするくらい大きいが、
これは踊り手が小さく、華奢に見えるようにとの工夫。
清長の描く亀戸天神の太鼓橋。
右手後ろに小僧さんが、
こぼした蜆を拾っているが、
「業平蜆」は江戸名物の一で、
亀戸天神内で売られているもの。
藤は日本各地に野生として生育する。
花はきれいだが、蔓は夏山に入ると実に厄介で、
それこそ鉈で断ち切りながら、進まなければならなくなる。
よそに見て帰らむ人に藤の花
這ひまつはれよ枝は折るとも
これは『古今和歌集』の僧正遍照の歌だが、
遠くから見るだけで私のとこによってかないって言うんなら、
藤の花の蔓よ、這いまつわってからめとっておくれ、
ポキンと折れちまったって、かまやしないわ。
かくのごとく藤の蔓は強く、女もまた強し。
芭蕉ならこうひねる。
「 草臥(くたぶ)れて 宿かる頃や 藤の花 」
なんと優雅な宿だろう、藤の花やどとは。