真夏の江戸は、今よりは涼しかったのですが、
まず家の構造が現代とは違います。
暑い夏を考えて作られていますから、
建具をよしずに替えますと、あとは外との戸障子を全開にしておけば、
風が家中を吹き抜けていきます。
『江戸浮世人形』より「カニさん」
さてこの人形は、そんな夏の家での一こまです。
腹掛け姿の幼な子が
「カニさん、さわるぅ~」
とねだっている、のどかな午後のひとときです。
母親が着ているのは、ひょうたん文様の単衣で、蓮華文様の地に、
七宝や分銅、巻物などの宝尽くし入り破れ市松文様の帯を、
ゆったりとひとつ結びにしていかにも、
暑い盛りの家内でのくつろいだ感じが出ています。
きょうは、江戸時代後期に大ブレークした、
「瓢箪柄」と「こうもり柄」について、ちょっこし。
瓢箪をアレンジした文様は古くからありましたが、
文化・文政期(1804~29年)頃から、一気に新たなデザインとなって人気になりました。
同時にこうもり柄も一気に流行しました。
これは7世市川団十郎が考案し、舞台に用いたためです。
こうもりは蝙蝠という字がどちらも「福」という字に似ていることから、
成田屋好みの文様の一つともなりました。
左の団扇絵は、お顔がいかにも成田屋さん!
背景に牡丹もあるので、わかります。
持っている本のタイトルからわかる方もおいででしょう。
あだな姿の辰巳芸者のこうもりのすそ模様。
下に裾のこうもりを拡大しています。
当時の歌舞伎役者は今でいう
「ファッション・リーダー」の一役を担っていました。
なぜなら当時の舞台の衣装は、ある程度のランクになりますとすべて役者の自前。
人気が出ればギャラもあがります。
そのために、衣装でも互いにしのぎを削り、それが世のブームを巻き起こしたのです。
襦袢のかけ襟にも・・・・。
前垂れにも・・・・。
江戸っ子は歌舞伎役者の着るものにも敏感に反応して、
生活の中にどんどん取り入れていきました。
着物はもとより、手ぬぐいや煙草入れ、財布などにも
ごひいきの好みの文様を誂えたりまでして、
好きな役者に近づきたかったり、自慢したかったり。
現代でも使いたくなる素敵なデザイン!