「雨竜」「雨龍」・・・「あまりゅう」「あまりょう」などと読む。
「竜」「龍」と名付けてはいるが、およそあの「龍」には見えない。
それでもこれは龍の一種で、イモリやヤモリ、トカゲにも似てはいるが、
れっきとした霊獣である。
濁り水の流れに棲み、雨を降らすことのできる「水霊」なのだ。
サイズはトカゲよりは大きいらしい。
蒼黄色をしていて、尻尾は細い。
架空の動物なのに、事細かな設定がなされている。
さらに驚くのは、雨竜が水の中で5000年過ごせば、
「蛟龍(こうりゅう)」となって天に昇っていくという。
その時にはもうトカゲのような姿ではなく、
四肢はたくましくなり、鋭く長い爪も生えている。
そして立派で見事な牙と角が生えるのだそうな。
もちろん中国から渡ってきたものだが、その時代は定かではない。
鎌倉時代にはすでに武家の装飾に使われていたようで、
楠正成の馬の鞍にも雨竜文様があるそうだ。
「厳島緞子」と呼ばれる織物にも雨竜が織り込まれているし、
陶磁器や漆器、刀の鍔、墨などにも使われているようだ。
御家元の中国ではあまり人気はなかったらしいが、
幕末の江戸では人気が広がっていた。
英泉が描く遊女の衣装には、随所に雨竜文様が見られる。
着物の文様として。
帯の界切に。
仕掛けのフキに。
まるでアリクイか象の鼻。
頭にはフサフサの毛が生えている。
体は細っこいが、四肢には3本の爪。
この爪がアレンジ&デフォルメされて、
立浪と同化していく事が多い。
この奇抜で一見何かわからないが、
どこかひょうきんなデザインを、
江戸っ子は大いに好んだようだ。
中国から伝播した雨竜文様は、
江戸の独特の感性の中を
自由に泳ぎ回った!
ま、そんな感じ。